心を耕すプレミアム体験型ツアー、カルトラ。第11弾は、「愛知の想像の力を建築で体験する旅」ということで、五十嵐太郎さんとともに建築の視点で、あいちトリエンナーレ2016の会場を巡りました。
まずは四間道へ。数少ない城下町の面影が残る四間道界隈は、清州越しの頃につくられた町人の町です。
清州越しは、名古屋城の築城に伴う清洲から名古屋への都市の移転のことですが、これにより、名古屋という都市が誕生しました。四間道の名前の由来は、1700年の大火の後、堀川沿いにある商家の焼失を避けるために、道幅を4間に拡幅されたことにちなんでいます。 名古屋城築城の為、開削された堀川沿いにあり空襲を逃れたことから、今もなお城下町の名残を楽しめます。
昼食は四間道沿いにあるNagono Salonで頂きました。100年以上前に建てられた蔵を改修したイタリア料理のお店です。
街を歩く合間には様々な解説も。
例えば名古屋駅を出て、すぐに見える大名古屋ビルヂング。1965年、名古屋の産業経済の発展に寄与し、「東に名城、西に大名古屋ビルヂング」と称されるようなランドマークをつくるべく建設された建物です。建設当時はビルの百尺規制(31m以上の高さのビルは建ててはならない規制)が撤廃された直後で、41mの高さを誇る大名古屋ビルヂングは、当時のビルとしてはとても高い建物でした。
現在の姿は2012年から改修工事を行った結果、低層部で初期のデザインを再現しつつ、上層部に近代的なビルを追加する形の腰巻ビルと呼ばれる建物になっています。この腰巻ビルをキーワードに、ゴジラの身長を交えて、ビルの高さの歴史について解説してくださいました。初代ゴジラは身長が50mだったそうで、それは当時、百尺規制があり、ほとんどの建物が31m以下だったからだそうです。1960年代に百尺規制が撤廃され、次々とビルが高層ビルに生まれ変わろうとする中で、歴史的建築の保存と高層ビルの開発という二つの要求を満たす手法として腰巻化が行われました。時代と共に建物の高さが変わり、それ故ゴジラの身長も変わっているという、特撮映画も踏まえた建築の歴史をお話して下さいました。
そしていよいよ、あいちトリエンナーレ2016のメイン会場である愛知芸術文化センターへ。
愛知芸術文化センターは、舞台芸術を見る為の芸術劇場と、美術品を鑑賞する美術館が積層され同じ建物内にあることが特徴の建築物です。美術、映像、音楽、パフォーマンス、オペラなど、現代行われている芸術活動をできる限り「複合的」に扱おうとする国際芸術祭のメイン会場としてふさわしい会場とも言えます。
ここでは30組以上のアーティストが展示していたのですが、この会場を見ただけでも感じたことは、今回のトリエンナーレでは、収集して分析された作品が多い印象でした。作家によって、様々な土地、文化を巡った中で収集して作られた作品を、一堂に会して見せあう。まさに隊商の休憩宿であるキャラバンサライのような役割を担う会場でした。
そしてその後は、建築家ユニットstudio velocity設計の個人住宅「まちに架かる6枚屋根の家」にお邪魔しました。
こちらは2016年に竣工されたばかりの新築です。住宅街に突然浮かび上がる真っ白な建築は、一見して個人住宅とは思えず、童話の中にいるような不思議な光景ですが、住む人のここちよさと、ユニークな表現を両立する彼らの建築は、愛知県の各地に着実に根付きはじめています。
ぱっと見では畳・障子・襖の和風日本建築とは似ても似つかないように見えますが、圧倒的な解放感を誇るこちらの住宅は、日本ならではの空間の広がりを思い起こします。特に庭と部屋の連続性は、庭を空間化した日本建築そのものです。
夕食は、料亭河文へ。創業400年前後の歴史を誇る河文は、愛知県で最古の料亭で、登録有形文化財に登録されています。9月は重陽(菊)の節句があるということで、料理に菊のあしらいが。料理をひきたてる日本料理のあしらいは、しみじみと美しさを感じるものです。
食事の後には、谷口吉郎さんが設計した水鏡の間にも案内していただきました。白い石畳で水鏡をつくっているのは珍しいとのこと。例えば、鈴木大拙館や豊田市美術館など、他の建築物で水鏡の間がある場所では、石畳は黒くすることによって鏡面にすることが多いそうです。ちなみに鈴木大拙館や豊田市美術館は、谷口吉郎さんの息子である谷口吉生さんが設計する建築です。生きた時代や求める建築像の違いから、作風には微妙な変化も見られますが、伝統に根ざしつつ、そこから優れた特質を抽出し清新な空間を創造する、という一貫した姿勢が親子に共通する建築の特性です。
また、谷口吉郎さんの水鏡の間に、後から付け加える形で、流政之さんによって「流れ床の庭」が完成しました。世界的な建築家と彫刻家のコラボレーションが見られるのは河文のみです。そして、この石畳の舞台では、年に1度舞台を開催しており、毎年のように革新的なコラボレーションを行っているそうです。ぜひ舞台の際にまた訪れてみたいものです。
2日目は岡崎、豊橋へ。
愛知と言えばモーニング、ということで、喫茶「丘」に向かいました。インスタレーション作品のようにも見え、トリエンナーレの一部かと思わせるような店内ですが、元は汚れを隠すための応急処置からはじまったのだそうです。ギラギラした装飾なのになぜか落ち着ける不思議な喫茶店。岡崎に行く際はぜひ訪れてみてください。
また、岡崎では、トリエンナーレだけでなく、町づくりのようすが面白くなっていました。集合住宅の一角でマルシェが開催されていたり、前回のトリエンナーレで使われた会場が残っていて、別のお店になっていたりしました。また、公園の一角ではトリエンナーレとは別枠で、建築家が自主的な企画としてアートプロジェクトを開催していました。市内の人々が自分たちで自分たちの住む街を盛り上げようとしている様が随所に見受けられます。五十嵐さんによって前回のトリエンナーレではどのように使われていたかを聞きながら、現在の街の様子を見て回る中で、アートプログラムが街に根付く様子を目にすることができました。
今回初会場となる豊橋は、建物の面白みも含め、充実した内容のアート作品が展開されていました。豊橋のまちなかの象徴として市民に親しまれてきた水上ビルのあちこちで作品が展開され、人々が出たり入ったりしている様子が印象的でした。
今回の旅では、愛知県ならではの文化を、建築の視点で巡りました。
面白い家や商店街など、街並みの様子を見ながらすいすい色々な場所へ立ち寄り、複合的な視点で建築を見つめる五十嵐さんの視点ならではの街歩きで、愛知県固有の歴史や文化を紐解く体験は、ただ芸術祭を巡るのとは一線を画す体験でした。
五十嵐さん、参加者・ご協力者のみなさん、素敵なお時間を提供していただき、本当にありがとうございました。
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