カルトラツアー第9弾は、石井葉子さんをお迎えし、岡山・犬島を巡ります。石井葉子さんのアートプロジェクトである“妖怪イヌジマプロジェクト”。犬島で約百年前に稼働していた銅の精錬所跡地から出る黒い砂でできた瞳を持ち、犬島のことを伝えるためにうまれた妖怪です。そんな妖怪イヌジマをコミュニケーションツールとして、犬島の歴史や文化に触れるツアーを行います。
犬島は、小さい島ながら歴史があり、古くから良質な花崗岩の産地としても全国に知られています。犬島の石は、岡山城、大阪城、江戸城などでも使われ、次第に全国各地に広がっていきました。
今回のカルトラツアーでは、この犬島の石の魅力をより深く理解するべく、岡山市内に点在する犬島の石スポットを、石井葉子さんの解説により巡ります。
妖怪イヌジマが伝えたい、犬島の大きな魅力のひとつである石の歴史を、後楽園、岡山城、西山緑道公園、石山公園を巡ることで、掘り下げていきます。
また、今回のツアーでは、妖怪イヌジマファンの方々のみならず、瀬戸内のアートファンの皆様にも必見の、2つのお祭りに参加します。
1つ目のお祭りは、約半世紀前に途絶えた、犬島天満宮の秋祭りの行灯をアートを介して復活させる“犬島天満宮アート行灯プロジェクト”です。
その昔、お祭りで灯された行灯の伝統は、島人が減るにつれ衰退し、やがて島の子ども達の絵を飾るかたちへと姿を変えました。しかし、学校の廃校と同時にそれらも終焉を向かえました。
それを復活するべく2012年よりはじまったのが、“犬島天満宮アート行灯プロジェクト”。犬島へのそれぞれの思いを集めて行灯にうつしだし、行灯の伝統を復活させ、記憶を繋いでいきます。
ツアー1日目にワークショップで実際に行灯を作り、犬島や妖怪イヌジマへの思いを描きます。2日目、犬島に渡り、犬島天満宮や山神参道に設置して行灯に火をともします。
2つ目のお祭りは、犬石祭の神事です。
犬島諸島のひとつであり、年に一度しか立ち入ることのできない犬ノ島という小さな島をご存知でしょうか?犬島西部に近接する無人島です。その島の最高所にある犬石宮では、犬島の名前の謂れになったという犬石様という巨石を見ることができます。通常は岡山化学工業の所有で参拝できませんが、毎年5月3日のみ「犬石祭」の日として、自由に参拝することができます。年に一度しか立ち入ることのできない犬ノ島にて、犬島島民の方々と一緒に、犬石祭の神事に参加します。
また、犬島と言えば外せないアートスポット、犬島精錬所美術館や犬島「家プロジェクト」などベネッセアートサイト直島で展開している美術施設も巡ります。
芸術祭の時期ではないからこそ、犬島の文化に深く触れる旅、ぜひともご体験下さい。
里帰り ―2007年夏のこと――――――――――――――――――
2007年夏の夕方、犬島からの帰路についた。島内で慌ただしくしていて、島を出た後のことを考えていなかった。宝伝港で1人バス停にいると「どこまで帰るの?」と、ある一家に声をかけられた。今日はもうバスが無いことを教えられ、駅まで車で送ってもらうことになった。
関西から来たという三人の一家。元気な老夫婦と30代と思われる息子。「旦那の祖父が犬島出身で毎年墓参りに来てる、島に家もあるけどもう無いようなもの」と奥さんが教えてくれた。島に残る廃屋を思い浮かべ、100年前に10年間だけ栄えたという銅の精錬所を思い出す。島内の共同墓地が、もう参る人の無い無縁墓地となりつつあると知ったのは、それから随分後の話だ。
「家の世話でなく血縁に会う為ではなく、この人たちは何に里帰りするのだろう」
新天地へ墓地を移したり、一族の墓にまとめたり、他にも方法はあるけれど、そうしない理由がこの一家にはあるのだろう。そして、自分と世代の近い一家の息子には曾祖父との記憶があるのだろうか。私には曾祖父母の記憶はない。100年とは、そういう時間の単位なのだと改めて思った。
自分の暮らす場所以外にもう一つ、自分の由来を表す場所を持つということ。遠くからいつも思う場所があるということ。この感覚は国によっては無いものなのだという。
里帰りによって、一家の父はここで暮らした人々との記憶を家族と共有し、母と息子は当時の話を聞きながら今の一家とここで過ごした時間を共有していくのだろう。海に隔てられたこの島は、島を離れた人達と今も見えない形でつながっており、それがこの島の現在の姿なのだ。
2009年夏、妖怪イヌジマの里親となった方達から「妖怪イヌジマを里帰りさせてあげたい」
という話題があがった、「これは大切なことだ」と感じた。
犬島で産まれた妖怪イヌジマ。島を出て各地の家に棲み憑いたイヌジマ。共に暮らすイヌジマとの里帰りを通して、島での時間を共有する。その循環によって新しい島の姿が産まれ、島の記憶が次へと引き継がれて行くのではないだろうか。
岡山駅直結の高層ホテル。清潔感溢れる客室と、丁寧なサービスでゆっくりとくつろぐことができます。また、種類の豊富な朝食ビュッフェもお楽しみの一つです。
香川県高松市の峰山緑地公園の東側面に位置し、四季折々の樹木・草花に囲まれ「花の宿」と呼ばれている旅館。刻一刻と変わりゆく瀬戸内の景色をお楽しみ頂けます。