心を耕すプレミアム体験型ツアー、カルトラ。第8弾となる、「日本の伝統文化、そこからつながる現代を体験する京都の旅」が6月21日~6月22日にかけて実施されました。緻密な描きこみとユーモラスなモチーフを採用した作風で、世界的に知られる画家・山口晃さんと初夏の京都を訪れました。アートと料理という異なるジャンルで、伝統を繋ぐ役割を果たす山口晃さんと村田吉弘さん。このお二人が出会い、どのような化学反応が起きたのでしょうか。京都の美意識、そして私たちの根底に流れる日本人のモノの「見方」を、改めて見つめる機会となった一泊二日のツアーの様子をお伝え致します。
6月21日(土)10時すぎ、京都駅に集合した一行は、早速バスに乗り込みました。
最初に一行が向かった先は平等院養林庵書院。平等院の中でも、鳳凰堂とミュージアムの裏手にある養林庵書院は、450年前の建造物で、通常一般には非公開の重要文化財です。一行は靴を脱ぎ、かつての宇治橋の橋梁をそのまま使用しているという廊下を、襖絵の待つ間まで歩きます。
2012年の冬に奉納された山口晃さんの襖絵は、右手には京都の山々と雲の間から列車が見えています。上下階級のありそうな列車と、地上を歩く人々は正面の襖絵に位置する京都の街へと向かっているようです。正面に描かれる京都の街は現代の町並みと歴史的な建築とが入り乱れ、混在し、山口さん特有の表現の世界が広がっています。更に左手に続く面には咲き乱れる藤の花が見えます。しかし、よく見るとこの藤の花は「南無阿弥陀仏」という文字が重ねて描かれていることが分かります。三年の構想と製作期間を経て完成し、普段は人目に触れない養林庵書院の中に佇む作品に出会い、一同はしばし過去と現在、極楽浄土の世界に思いを馳せました。
平等院のご住職が、歴史的な建造物に手を入れながら保存していくことの大切さや、この山口さんの奉納された絵が、後世では平成の足跡として残されていくだろう、と語られているのが印象的でした。また、話中に挟まる山口さんの制作エピソードで、笑顔の溢れる和やかな時間を過ごしました。
養林庵書院拝観の後は、同じく平等院の中にある鳳翔館ミュージアムへ。雲中供養菩薩の造形に魅了され、平等院近くの御食事処、「花やしき浮船園」へと徒歩で移動。食事も進み一段落したところで、cultra恒例の自己紹介タイムです。ほとんどの方がお1人で参加されているのですが、皆さんご自身のバックグラウンドに加え、山口さんのファンになった経緯を語ってくださり、おいしい食事と共通の話題で、すぐに打ち解けていらっしゃいました。
一行は再びバスに乗り込み、平等院のある宇治市を後にしました。次に向かった先は聚光院です。聚光院も普段、一般には公開されていない建造物ですが、このツアーでは特別に拝観することができました。
お寺の方による全体の説明をして頂いた後、絵師ならではの見方で、山口さんに襖絵の解説をして頂きました。日本ならではの平面的な絵の中での間うまさや余白の広がりについて、時には西洋の画家セザンヌや、ご自身が子供だった頃の絵の話を交え、狩野永徳、松栄の襖絵の魅力を解説して頂きました。また、平等院でも、修復を重ねながら保存していくことの大切さについてお話を頂きましたが、この聚光院では屋根を修復中でした。檜皮(ひわだ)葺屋根の隙間からうっすら見えるブルーシート、梅雨のこの時期に青空みたいでいいですよね、とは山口さんの解釈。修復工事中は、お客様が減るそうなのですが、工事は100年に1回程度の頻度なので、こちらの方が貴重で中々見られないですよね。と、どんなものでも少し視点を変えるだけで価値を発見できることを教えて頂きました。
1日目の見学工程を終え、一行を待っていたのは、ミシュランガイドで三ツ星を獲得している老舗料亭、菊乃井でのおもてなし。目にも美しいお料理が1品出てくるたびに、歓声があがります。
山口晃さんの作品をイメージした一皿は一枚の絵のようなお料理。タイトルは「潮騒」(サウンドオブシー)。そのタイトル通り、海岸の波音が聞こえてきそうな一皿です。懐石料理といえば、古く茶の湯の席がはじまりと言われていますが、まるで見たことのない新しい表現に、皆さん出てきた瞬間感嘆の溜息をもらしました。お箸を入れていいのか悩ましい程の美しさと、早く口にしてみたい好奇心。さまざまな想いが胸の内に去来して、五感に訴えかけてくるような得も言われぬ感覚に、皆さん魅了されていました。
さて、食の美を楽しんだ後は、こちらも待ちに待った席画の時間です。席画とは、画家が招かれた会席で客の注文に応じて描くことで、江戸時代に盛行したと言われています。そう、今回は、ツアーに参加されたお客様がその場でお題を出し、山口さんが描くという、大変贅沢なイベントなのです。
早速1枚目。お題は「夏至」。夏至を絵で表現するなんて、最初からかなりの難題です。真っ新な半紙を前に、最初は描きづらそうにしていた山口さんですが、描きはじめてからの集中力は凄まじく、皆さん固唾を飲んで見守ります。そうして山口さんの絵筆の動きに夢中になっている内に、あっという間に作品が!皆さん拍手喝采で大盛り上がり。誰もが予想していたものよりも数段上をいくような描きこみに、興奮の色を隠せません。
画像ではよく見えないかもしれませんが、1番上の人はストップウォッチを持っています。夏至は1年で1番昼が長いと言うけれど、本当に1番長いのか?とストップウォッチで計っている姿とのことです。山口さんの説明を聞いて、ふっと笑いが起きました。皆さんが大好きな山口さん独特のしゃれの効かせ方、即興の席でも健在です。
熱狂に包まれながらの2枚目のお題は「鶴」と「猫」。1枚ごとにお題が1つずつ増えていき、どんどん難易度をあげていきます。
画伯・山口さん、なんとも勇ましい姿で描かれています。ふと気が付くと、後ろに村田さんのお姿も。絵に集中して中々気づかない山口さんですが、お客さんの一声で気づいた途端、動揺されて顔を覆うシーンも。そのような掛け合いが見られるのも、席画ならでは。
完成を待ちきれずに、感想の嵐がやまない2枚目はこちら。
タイトルからも分かるでしょうか。猫が鳥黐で鶴を捕獲して食べています。猫と鶴というかわいらしいモチーフですが、可愛いだけでは終わらない、少し毒っ気を含んだユーモラスな表現。即興の席で「鶴」と「猫」からこのような絵が生まれるなんて、知識の深さと、磨き抜かれた絵の技術があってのものです。
3枚目のお題は「菊」と「宇宙」と「愛」。「菊」は村田さんが、菊乃井の頭文字から出したお題です。まるで関係のない3つのテーマを、どのように繋げて描ききるのか。これまでの難題を見事に表現して下さった山口さんに、皆さんの期待もぐっと高まります。
本日の菊乃井さんでのお食事をイメージして描かれた3枚目がこちら。山口さんをイメージして作られた一皿が天の川に見えた為に描かれたという宇宙を背にして、宇宙服をきた人が菊(菊乃井でのお料理)に出会って驚いている姿が見えます。その上には何故か鮎が!鮎は、本日の料理の中でもとってもおいしかったので描かれたのだそうです。さて、愛はどこにいったのかというと、なんとタイトル部分にちゃんと描かれていました。
本日のお料理とのデ“アイ”です。山口さんの説明を受け、どっと笑いが起きます。最後までユーモアあふれる作品と人柄で魅せてくださいました。美味しいお料理とお酒、お客さんと絵師との掛け合いで起こる笑いや、生まれた作品。江戸時代に盛行したと言われる席画の醍醐味、というものを見せて頂いたように思います。
席画の後は、再びお食事を頂き、お料理と絵、それぞれの分野で魅了して下さった村田さんと山口さんのトークショーです。
今回のお料理の制作エピソードなど作ることに視点をあてた話題から、癖や10年後の住まいなど人柄に迫るようなものまで、幅広くお話し頂きました。特に、お二人の共通点でもある、伝統をまもるという話では、それぞれの分野でのプロの思いに触れ、文化継承のありがたみを再認識する時間となりました。また、トークショー後には山口さんが、皆さんがお持ちした本にサインをする場面も。菊乃井を出るときの皆さんは笑顔で、「料亭では、お食事の美味しさだけではなく+αのおもてなしが必要。」と語られた村田さんのお言葉通り、菊乃井でのおもてなしに、皆さん大満足で1日を終えました。
ツアー2日は、西本願寺へ。境内は国の史跡に指定され、「古都京都の文化財」として世界遺産にも登録されています。西本願寺は、浄土真宗本願寺派の本山で、正式名称は「龍谷山 本願寺」と言います。真宗大谷派の本山である東本願寺と区別するため、通称、西本願寺と言われています。この日はあいにくの雨で、傘を差しながらの拝観となりましたが、昨日の山口さんの話を思い出し、雨が降っているこの日だからこそ美しいものを見つけることが出来ました。京都のお寺では頻繁に目にする杉苔です。晴れていると茶色く見えるのですが、雨が降っているこの日は、青々と美しい杉苔が見られました。
まずは飛雲閣を拝観しました。国宝である飛雲閣は、金閣、銀閣とともに京都三名閣の一つです。金閣、銀閣が左右対称であるのに対し、建物全体が非対称に造られているのですが、不規則な中にも調和が保たれている巧みさがあります。見る位置によって変化する外観は、歩きながら鑑賞することで、様々な表情を見せてくれます。
その後は龍虎殿から書院へと入り、鶯張りの板がきしむ音とともにゆっくり歩きながら、お寺のガイドさんに一間ごとに見どころをご紹介頂きました。また、最後には山口さんならではの見どころを解説頂きました。過去ならではの空間意識や絵の在り方について、今と比較してお話し頂き、単に過去の作品というのではなく、そこからつながって今が在るという実感が沸いたように思います。
さらに一行は御影堂に行き、今回の旅で耕した心で、思い思いに御堂を拝観しました。御堂に佇む山口さん、絵になります。一行が外へ出ると、空模様も回復し晴れ間が見えていました。皆さんも山口さんと記念撮影をされたり、それぞれに話題をふくらませたり、晴れやかな笑顔がまぶしく映ります。
「日本の伝統文化、そこからつながる現代を体験する京都の旅」。今回の旅では、伝統や文化というものに深く想いを馳せるツアーとなりました。伝統は守ろうとするのではなく、いま起きていることに積極的に参加していくことで結果的に繋がっていくのだと村田さんにお話頂いたように、カルトラに参加したことで、ずっと途切れない繋がりができたのではないでしょうか。
今回お会いできた皆さん、そして次回参加を希望する皆さんにも、今後のカルトラツアーでお会いできるのを楽しみにしています。山口さん、村田さん、参加者・ご協力者の皆さん、素敵なお時間を提供していただき、本当にありがとうございました。
国内外を問わず、世界中から京都を訪れる方々に向けた今までにない新しいスタイルのホテル。友人が集う場に遊びにきたような居心地の良さも兼ね備えながら、京都の今を表現するアートやカルチャーが集まる刺激に満ちた場を提供しています。
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